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神戸地方裁判所 昭和57年(行ウ)37号 判決

原告 苔口一男

被告 須磨税務署長

代理人 一志泰滋 国友純司 大西良平 ほか二名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して昭和五六年六月一五日付けでした、原告の昭和五五年分所得税についての更正処分のうち、課税される所得金額二一五万八〇〇〇円、納付すべき税額二七万三二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件処分に至る経緯

原告は、昭和五五年分の所得税につき、法定期限内に被告に対し、別表(一)確定申告欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、昭和五六年六月一五日付けで同表更正欄記載のとおりの更正処分(以下、「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、「本件賦課決定処分」という。)をした(以上の各処分を合わせて「本件各処分」という。)。

2  本件各処分の違法性

しかしながら、本件更正処分は次のとおり違法であるから、本件賦課決定処分も違法である。

(一) 事業主が雇用保険法(昭和五六年法律第二七号による改正前のもの。以下、「旧法」という。)六一条の二第三項に基づいて国から支給される中高年齢者雇用開発給付金(以下、「給付金」という。)は、中高年齢者の深刻な雇用不安に対処するため、雇用機会を増大させるための助成及び援助の事業として、所定要件を満たす事業主に支給されるものである(昭和五四年九月二一日労働省令第二八号による改正後の雇用保険法施行規則(以下、「規則」という。)一〇二条の一三、一四)。

(二) このように、高度な社会政策的配慮に基づき、中高年齢者の雇用を促す目的で直接国から支給される給付金については、これを事業所得として、課税対象とすること自体疑問であるばかりではなく、法令に基づき定率又は定額で定められている給付金に課税することは、現実の金額が予め計算した金額を下回ることになり、法令の規定と異なる結果をもたらすことになるから、給付金は事業所得として課税の対象とされるべきではない。

(三) ところが、本件更正処分は、原告が国から支給された給付金(以下、「本件給付金」という。)を事業所得にかかる収入金額と認めた。

(四) よつて、本件更正処分には、事業所得に関する法令の解釈を誤つた違法がある。

3  以上のとおりであるから、原告は、本件更正処分のうち、確定申告にかかる所得金額を超える金額を認めた部分及び本件賦課決定処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  請求原因第2項について

(一) 同冒頭部分、同項(二)及び同項(四)の各主張は争う。

(二) 同項(一)及び(三)の各事実は認める。

三  被告の主張

1  給付金について

(一) 給付金は、国が事業主に対する中高年齢者(以下、中年齢者とは満年齢が四五歳以上五五歳未満の者を、高年齢者とは満年齢が五五歳以上六五歳未満の者を、それぞれいうものとする。)の雇用機会を増大させるための助成及び援助の事業として、中高年齢者を雇い入れ、その雇用割合又は雇用者数を高めた事業主に対し、事業主の支払う賃金の一部を助成するため、国から都道府県を通じて支給されているものである。

(二) そして、給付金として支給される額は、当該事業主が雇い入れた中高年齢者一人につき、次に述べる(1)ないし(3)のとおりである(規則一〇二条の一四第二項)。

(1) 中年齢者の場合

雇入れ後六か月間の支給対象賃金額に五分の四を乗じたものに、その次の六か月間の支給対象賃金額に三分の二を乗じたものを加えた額。

(2) 高年齢者の場合

雇入れ後一年間の支給対象賃金額に五分の四を乗じたものに、その次の六か月間の支給対象賃金額に三分の二を乗じたものを加えた額。

(3) 但し、右の支給対象賃金額とは、次の(イ)又は(ロ)のうち、いずれか低い額をいう。

(イ) 対象中高年齢者に対して支給申請にかかる支給対象期に支払つた賃金(臨時に支払われた賃金及び三か月を超える期間ごとに支払われる賃金を除く。)の額。

(ロ) 別表(二)記載のA欄及びB欄の区分に従い、同C欄に掲げる額のうち該当するものに一五〇(支給対象期が経過する前に事業主に雇用されなくなつた対象中高年齢者については、支給対象期の初日から離職日までの期間における出勤日数)を乗じた額。

但し、支給対象期が昭和五五年三月三一日までのものはC1欄により、同年四月一日以降のものは同2欄による。

(三) このように、給付金は、事業主の支払う給料賃金の補てんとして交付を受けるものであるから、いわば経費補償金のような性格を有するものである。

2  本件給付金について

(一) 給付金に対する課税について

現行の所得税法は、課税の対象とする所得を利得、すなわち、取得した経済上の成果を意味するものとしており、基本的には一定期間内における純資産の増加をすべて所得とするいわゆる純資産増加説に立脚している。そして、担税力が薄弱であるとか、徴税上、公益上又は政策上の理由等必要のあるものについては、非課税所得及び租税特別措置法により、課税除外所得を規定しているのであるから、法令上明らかに非課税とする趣旨が規定されていない限り、課税の対象となるといわざるを得ない。

よつて、本件給付金が課税の対象にならないとする原告の主張は理由がない。

(二) 本件給付金の収入金計上について

(1) 前述した給付金の経費補償金的性格及び雇い入れた従業員に支給する給料賃金がその都度必要経費に算入されていることに照らすならば、本件給付金は、その給料賃金に対応して、同一年度の収入金額に計上されるべきである。

(2) 本件給付金の収入金計上の計算方法は、次のとおりである。

(イ) 給付金の支給対象期間が昭和五四年から五五年にまたがるものについて

〈1〉 この場合、昭和五五年分の収入とすべき金額(別表(三)の(1)記載の〈7〉欄)は、支給対象者に対する給付金額(同表記載の〈6〉欄)の合計から昭和五四年分の収入として計上される金額(同表記載の〈5〉欄)の合計を差し引いた金額である。

〈2〉 右支給給付金額の具体的な計算は、別表(三)の(2)記載のとおりである。

〈3〉 そして、昭和五四年分の収入とすべき金額は、支給対象者に同年中に支払われた給料賃金額(別表(三)の(1)記載の〈1〉欄)と支給対象最高限度額(同表記載の〈2〉欄)とを比較し、低い方の額を支給対象額(同表記載の〈3〉欄)として、それに支給率(同表記載の〈4〉欄)を乗じて得た金額である。

〈4〉 よつて、昭和五五年分の収入とすべき金額は、三四六万七一七〇円である。

(ロ) 給付金の支給対象期間が昭和五五年中のものについて

昭和五五年分の収入とすべき金額は、各支給対象者に対する給付金額(別表(四)記載の〈6〉欄)を合計したものであり、その金額は、一六二二万一七二一円である。

(ハ) 給付金の支給対象期間が昭和五五年から五六年にまたがるものについて

〈1〉 この場合、昭和五五年分の収入とすべき金額は、支給対象者に昭和五五年中に支払われた給料賃金額(別表(五)記載の〈1〉欄)と支給対象最高限度額(同表記載の〈2〉欄)とを比較し、低い方の額を支給対象額(同表記載の〈3〉欄)として、それに支給率(同表記載の〈4〉欄)を乗じて得た金額の合計である。

〈2〉 よつて、昭和五五年分の収入とすべき金額は、六八六万五一九九円である。

(3) 従つて、原告の収入金額とすべき本件給付金の額は、右(2)の(イ)ないし(ハ)の合計額である二六五五万四〇九〇円である。

3  本件各処分の適法性について

本件更正処分は、次のとおり適法であるから、本件賦課決定処分も適法である。

(一) 原告の事業所得金額

(1) 収入金額

(イ) 訴外渡辺塗装株式会社からの収入金額は、三九一九万六〇七七円である。

(ロ) 同極東開発工業株式会社からの収入金額は、四七九万三七〇〇円である。

(ハ) 本件給付金は、前述のとおり、二六五五万四〇九〇円である。

(ニ) よつて、収入金額は、右(イ)ないし(ハ)の合計額である七〇五四万三八六七円である。

(2) 一般経費 二一五万〇〇七八円

これは、原告が確定申告書に添付した事業所得金額の計算書(以下、「所得金額計算書」という。)に記載した金額であり、その内訳は、別表(六)記載のとおりである。

(3) 特別経費

(イ) 給料賃金 四二八三万〇一六六円

これは、原告が所得金額計算書に記載した金額(四三八三万八三六四円)に集計誤り額(一五五万二六〇二円)を加算し、原告に対する給料賃金(二五六万〇八〇〇円)を減算したものである。

(ロ) 地代家賃 四六万一五一七円

これは、原告が所得金額計算書に記載した金額である。

(ハ) よつて、特別経費は、右(イ)及び(ロ)の合計額である四三二九万一六八三円である。

(4) 従つて、原告の事業所得金額は、前記(1)の金額から(2)及び(3)の合計額を控除した二五一〇万二一〇六円である。

(二) このように、原告の昭和五五年分の事業所得金額は二五一〇万二一〇六円であるから、その範囲内でされた本件更正処分は、適法である。

4  よつて、原告の本訴請求は、理由がない。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張第1項(一)及び(二)は認め、同項(三)の主張は争う。

2  被告の主張第2項について

(一) 同項(一)の主張は争う。

(二) 同項(二)について

(1) 同(1)の主張は争う。

(2) 同(2)の(イ)及び(ハ)のうち、支給対象者及びその中、高年の区分、給付金の対象となる就業期間並びに支給給付金額は認め、その余の主張は争う。同(ロ)は認める。

(3) 同(3)の主張は争う。

3  被告の主張第3項について

(一) 同冒頭部分の主張は争う。

(二) 同項(一)について

(1) 同(1)の(イ)及び(ロ)の各事実は認め、同(ハ)及び(ニ)の各主張は争う。

(2) 同(2)及び(3)の各事実は認める。

(3) 同(4)の主張は争う。

(三) 同項(二)の主張は争う。

4  被告の主張第4項の主張は争う。

五  原告の反論

1  所得税法三六条一項は、「各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする。」旨定めているが、ここにいう「収入すべき金額」とは収入すべき権利の確定した金額と解されている。

2  本件給付金について

(一) 前述したように、給付金は、あくまでも中高年齢者の雇用機会を増大させるための助成及び援助の事業の一環として給付される奨励金であり、ただ、その計算方法の便法として、所定期間に支給した賃金に連接させる方法をとつたにすぎないから、被告の主張するように、経費補償金的性格を有するものではない。

(二) ところで、規則一〇二条の一四第二項によつても明らかなように、給付金は、雇入れの日等から起算して六か月又は一年の期間を経過した時点で、はじめて請求権が発生するものであり、右所定期間の中途においては、収入すべき権利の確定は生じていない。そのために、右所定期間の中途で当該労働者が退職すれば、事業者は、右経過分相当の給付金の支給を請求することさえできない。このことは、仮に、給付金の性格を被告主張のとおり、経費補償金と解したとしても、何ら異なるものではない。

(三) よつて、給付金の支給期間が二年度にまたがる場合においては、その経過時点の属する年度の所得とすべきでありこれをその中途の年度の収入金額に計上することは、支給すべき権利の確定が全く生じていないところに所得を認めるものであるから、所得税法三六条一項に反する。

3  よつて、仮に給付金が事業所得金額に算入されるとしても本件において昭和五五年分の事業所得金額に算入されるのは期間経過時点が同年に属するものだけであるから、別表(七)記載のものに対する支給額を同年分の事業所得に算入した本件更正処分は違法である。

六  原告の反論に対する認否

争う。

七  被告の反論

1  給付金請求権の発生時期について

給付金請求権は、事業主が旧法六一条の二第三項に規定する要件を具備した中高年齢者に対して賃金を支払う都度、その支払を原因として、賃金支払額の五分の四(又は三分の二)相当額の範囲内で各月ごとに発生するものである。

もつとも、給付金の実際の請求手続においては、事業主が規則の定めるところに従い、雇入れの日等から起算して各六か月(最初の六か月を第一期、次の六か月を第二期、更に、高年齢者については、その次の六か月を第三期とする。)を経過した後一か月以内に給付金支給申請書を提出することになつているが、これはあくまでも、事務便宜上の請求手続を定めたものにすぎないから、右申請書の提出によつて始めて給付金請求権が発生するものではない。

2  退職労働者に対する給付金について

給付金の支給の対象となる中高年齢労働者が規則所定の期間の中途で退職した場合であつても、賃金支払いの事実があれば、その支払の時点において、その支払額に対応する給付金請求権が発生することになる。

すなわち、右所定期間の中途で該当労働者が退職した場合、その所定期間における該当労働者が退職した一名だけのときには(数名のときは、他の者の請求と一緒に六か月経過後に行うこととなる。)、六か月経過後まで請求を待つ必要はなく、右退職後直ちに請求できることとされているのである。

従つて、該当労働者が所定期間の中途で退職した場合に給付金を請求することができないというような事態は、起こり得ない。

3  よつて、原告の反論は、理由がない。

八  被告の反論に対する認否

争う。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因第1項(本件各処分の存在)の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件各処分の適否について

そこで、本件各処分が適法であるかどうかについて検討することとする。

1  本件更正処分について

(一)  原告は、本件給付金の事業所得該当性及びその帰属年度のみを争つているので、以下、この点について検討することとする。

(二)  本件給付金について

(1) 原告は、本件給付金は、国が社会政策的配慮に基づき、中高年齢者の雇用を促す目的で事業主に支給するものであるから、これを課税対象とすべきではない旨主張する。

しかしながら、現行の所得税法は、課税の対象となる所得を取得した経済上の成果(利得)としてとらえ、一定期間内における純資産の増加をすべて所得とみる一方、担税力が薄弱であることもしくは徴税上、公益上又は政策上の理由から非課税所得を定め(同法九ないし一一条)、租税特別措置法その他の法令により所得控除、特別税額控除等の課税除外所得を定めている。従つて、このような税制の趣旨に照らすと、純資産の増加は、法令上それを明らかに非課税とする趣旨が規定されていない限りは、課税の対象とされるものと解すべきところ、給付金についてこのような特別の定めをした法令は存在しない。

よつて、本件給付金が課税の対象となる所得に該当することは明らかであるから、原告の右主張は理由がない。

(2) 次に、原告は、本件給付金は、雇入れの日等から起算して六か月を経過した時点で始めて請求権が発生するものであるから、右所定期間の中途においてこれを当該年度の収入金額に計上することは、所得税法三六条一項に反する旨主張する。

ところで、給付金は、旧法六一条の二第三項、規則一〇二条の一四に基づいて支給されるものであるが、その支給額は、一定の限度額の定めはされているものの、支給対象労働者に支払つた賃金額の所定割合とされていること(被告の主張第1項(二)、このことは当事者間に争いがない。)に照らすと、その性格が経費補償的なものであるか報償金的なものであるかの点はともかくとして、これに対する請求権は、あくまでも毎月の賃金の支払いに応じて成立するものと解すべきである。もつとも、中高年齢者雇用開発給付金支給要領(昭和五四年六月八日付け職発第二五八号、訓発第一〇七号雇用安定事業等の実施について(各都道府県知事宛て労働省職業安定局長、同省職業訓練局長通達)別添3。以下、「支給要領」という。)によれば、給付金の支給を受けようとする事業主は、受給資格の決定を受けた対象中高年齢者にかかる別表(八)記載の支給対象期が経過するごとに、当該支給対象期分の給付金について、右対象期の末日の翌日から起算して一か月以内に所定の支給申請書を当該事業所の所在地を管轄する公共職業安定所の長に提出しなければならないとされている(同要領4(1)、3(1)、(2))ことが認められる。

しかしながら、<証拠略>によれば、支給要領は、あくまでも事務処理上の便宜から支給手続を定めたものにすぎず、支給の対象となる労働者が期間の途中で自己退職した場合には、その労働者にかかる給付金の支給申請については、支給要領所定の六か月の経過を待たずにこれを申請してもこれを受理する運用がとられていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。従つて、支給要領に前記のような定めが存在することから、給付金請求権の発生時期を規則所定の期間の経過後とみることはできない。

そして、このように給付金請求権の発生時期が事業主において当該従業員に賃金を支払つた各月ごとに発生するものである以上、事務処理手続上の理由から給付金の支給が翌年分となつた場合でも、その給付の原因となつた支払いの属する年分の金額を見積り、当該年分の事業所得の計算上、総収入金額に算入することは、何ら所得税法三六条一項に反するものではない。

よつて、原告の前記主張も理由がない。

(3) 本件給付金について

(イ) 別表(三)の(1)、(四)及び(五)記載の支給対象者、中高年の区分、給付金の対象となる就業期間及び支給給付金額は、いずれも当事者間に争いがない。

(ロ) 被告の主張第2項(二)の(2)の(ロ)の事実は、当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば同(イ)及び(ハ)の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(ハ) よつて、本件給付金は二六五五万四〇九〇円である。

(三)  本件更正処分の適法性について

(1) 収入金額について

(イ) 被告の主張第3項(一)の(1)の(イ)及び(ロ)の各事実は、当事者間に争いがない。

(ロ) 本件給付金が二六五五万四〇九〇円であることは、前述のとおりである。

(ハ) そうすると、原告の収入金額は、(イ)及び(ロ)の合計額である七〇五四万三八六七円となる。

(2) 原告の事業所得にかかる一般経費が二一五万〇〇七八円であること及び右特別経費が四三二九万一六八三円であることは、いずれも当事者間に争いがない。

(3) 原告に事業所得以外の所得がないことは、当事者間に争いがない。

(4) よつて、原告の昭和五五年分の総所得金額は、右(1)から(2)を控除した二五一〇万二一〇六円となる。

(四)  本件更正処分の適法性について

前述のとおり、原告の昭和五五年分の総所得金額は二五一〇万二一〇六円であるが、これは、本件更正処分における原告の同年分の総所得金額二一二三万八六八九円を上回るものである。

よつて、右二五一〇万二一〇六円の範囲内で総所得を認めた本件更正処分には、違法はない。

2  本件賦課決定処分について

(一)  原告が期限内に別表(一)確定申告欄記載の確定申告をしたことは、当事者間に争いがない。

(二)  ところで、前述のとおり、原告の昭和五五年分の総所得金額は二五一〇万二一〇六円であるから、原告は、右確定申告に際しても、右金額を含めた所得税の確定申告をしなければならなかつたものである。ところが、原告が右金額を含めて確定申告をしなかつたため、本件賦課決定処分を受けたことは、<証拠略>により明らかである。そして、原告が前記金額について確定申告をしなかつたことについて、国税通則法六五条二項但し書きに規定する「正当な事由」の存在を認めるに足りる証拠はない。

(三)  従つて、本件賦課決定処分は適法である。

3  以上のとおりであるから、本件各処分は適法であり、これを違法とする原告の主張は、いずれも理由がない。

三  結論

よつて、原告の本訴請求は、いずれも理由がないものとして、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上博巳 笠井昇 田中敦)

別表 <略>

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